• ダンモOB会事務局

ユーロのピアニスト (その1)

武冨さん (鑑賞部 '68) から

90年代中半に下手なピアニストのアルバムを買ってしまった。それはアメリカのブラッド・メルドーだったのだが、リズムへのノリが悪くいささかもスイングしておらず、メロディーもジャズでは聞いたことのないクラシカルなところがあって、下手な奴と一旦は切り捨ててしまったのだが…。

当時の自分にとってピアノと言えばハンプトン・ホーズでありオスカー・ピーターソンやウイントン・ケリー、あるいはマッコイ・タイナーやチック・コリヤであり、そしてビル・エバンスやキース・ジャレットだった。だがそのいずれとも異なったジャズであり、自分の理解を超えていたものだったのです。

ところが一度聞いただけで捨ててしまわず何度も聞き直すのが自分のケチな所であり、元を取らねばと何度か聞き直すのですが…不思議なことでした。聞くたびに彼の音楽が理解できるようになり、更に好きになって行く自分に唖然とするのでした。そして同時期に二人のユーロのピアニストのアルバムを買ったのです。

一人がスイスのティエール・ラングでありアルバムは『ビトウィーン・ア・スマイル・アンド・ティアーズ』でした。彼のピアノは今までにないクラシカルなリズムとメロディーで自分を困惑させるのですが、素直なクラシカル振りということもあってすんなりと入り込め、後のユーロのピアニストへの端緒となったのです。

もう一人がスエーデンのエスビヨルン・スベンソン (E.S.T.) でそのアルバムは『フローム・ガーガリンズ・ポイント・オブ・ビュー』なのですが、これもまた今までのジャズには無いポップな要素とクラシカルな感覚を併せ持ち、卓越した技巧のもとに妙に明るく屈託が無く、それでいてジャズの気分を失うことが無いまさしくジャズだったのです。彼はつい先日事故で亡くなったのですが、このアルバム以前のものを含めて大方のアルバムを収集してしまい都合十数枚になってしまいました。

このスベンソンの新しい試みは彼の死後もヨーロッパや日本のピアニストに多大な影響を与え続け、新しいジャズピアノを志す者にとって一度は聞きあるいは学ばねばならない存在となっているようです。ダンモ研の現役生も一度は聞いていただきたいものです。今日日本人では桑原あいがポップスな面を多少なりとも影響受けたかと、そしてスエーデン在住の坂田尚子がクラシカルな面とフリーな面を受け継いだと言えるでしょう。

そして2000年に入って間もなく、レコード屋の棚に並んでいた東洋人らしい女の子のCDに目が留まったのです。

全部英語で書かれているし輸入盤でしたから、これは買って聞いてみるしかなかったのですが、これが上原ひろみの初アルバムの『アナザー・マインド』でした。後に国内盤も出て大いに売れることとなったあのアルバムです。このCDには初聴からたまげました。ポップなリズムとノリでこれは今までに無いジャズの到来かと即座に思ったものです。明らかに東西で新しいピアノジャズの胎動を感じ始めるのでありました。

そこで、今般は90年代中半以降ユーロで出たピアノ・トリオ・アルバムの中で、フォービート・ジャズであろうと新しいタイプのジャズであろうと面白いアルバムをご紹介することとしたいと思います。


ティエール・ラング / スイス

ビトウィーン・ア・スマイル・アンド・ティアーズ    これは輸入盤なので現在手に入るかどうか分かりません。手に入らない場合は、後にブルー・ノートから何枚かのアルバムを出しているので、それを求めれば良いでしょう。如何にもユーロの端正にしてクラシカルなジャズが楽しめます。


エスビヨルン・スベンソン (E.S.T.) / スエーデン

サムホエアー・エルス・ビフォー    常に進化し続けたのが彼のピアノの特徴で、その中期を代表する集大成的なアルバム。この後彼はフリー性を帯びて行くこととなります。

ライブ・イン・ベルリン

ライブ・イン・ハンブルグ   

いずれも絶頂期のライブ盤、フリー的な部分もありますが違和感なく楽しめる傑作。もしフリーなジャズがお好きなら最後のアルバムとなった『ルーコサイト』や『301』もお勧めします。


ルイス・バン・ダイク / オランダ

バラッド・イン・ブルー    オランダと言えばピム・ヤコブスが忘れられませんが、この国は予てよりジャズ大国であります。大人のピアノです、お馴染みのジャズナンバーを大した速弾きもなくシングルトーンでひたすら一音一音を大事に弾いています。     甘美なメロディーの中にきりっと締まったタッチと音色で迫ってきますが、これは巧みなペダルワークによるとの指摘もあるのですがその通りなのでしょうか。言って見ればワンマン・トリオなのですが、ベースは一拍目と三泊目のみで弾いたり、ドラムスもブラシをシャカシャカやるのみなのですが、これが素晴らしい。     ピアノを引き立てることが自分たちも引き立つのだということを、知り尽くしているかのごとく的確にして最小にして最大の効果を与えているのです。


ウラジミール・シャフラノフ / フィンランド

ホワイト・ナイト    沢野商会はユーロのピアニストを数多く紹介してきました、彼もその一人です。     アルバムはどれをとっても外れが無く素晴らしいのですが、これはジョージ・ムラーツ (b) とアル・フォスター (ds) という強烈なリズム陣がサポートしていて揺るぎがなく、ご存じの定番ジャズナンバーが気持ちの良いスイング感でジャズの醍醐味を伝えてきます。


フランク・アヴィタビレ / フランス

ライト・タイム    フランスもジャズ大国で多くのピアニストがいるのですが、ユーロ各国から来ていることもあって、私にはフランス人だか他の国の人か分からないことも多いのです。     アヴィタビレは間違いなくフランス人、ダンモ研の友人は「彼のトッチャン坊や顔を見ると聞く気になれなくなる」と言うのですが、天才少年ですから許してやってください。     と言っていたのは十年以上も前のこと。お馴染みのナンバーをぐいぐいと引っ張って行きますが、今は亡き天才ベーシストのペデルセンの好サポートも聴きどころです。アルバムはこの他にもいろいろありますがどれも良いアルバムです。


ジョバンニ・ミラバッシ / イタリア

アーキテクチャーズ    セツナイ美メロのピアニストで彼の右に出る者は無いといってもいいほどです。アルバムはフランス語で書かれていますが確かイタリア人だと思います。コンサートもクラブもなかなかチケットが取れなかった記憶があり、人気のほどが偲ばれます。ライブだと聴衆を意識してかアルバムよりノリノリになるのは不思議なもので、どちらも同じミラバッシではありますが、私はアルバムの方が好きです。     アルバムは多数あり多少はコンセプトが違うこともあって好みが分かれるでしょうが、どれも良いアルバムです。     救いようのないほど切ない音楽と言えばタンゴ、このタンゴをやっているアルバム『C minor』はタンゴ好きな方にお勧めです。


武冨 学 (鑑賞部 '68)



2013/5/4 更新

参考
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